カーボンフレームとアルミフレームの強度はどちらが強いか
世の中には、カーボンフレームとアルミフレームの強度は、どちらが強いかという論争があるようです。
ただ、中身を見ると正しい情報と間違った情報が混在しています。
この記事の筆者は、自転車ではないけれど、機械設計者です。
そのため、基本的な材料についての知識があり、設計の失敗についても多くの経験があります。
その筆者が、カーボンフレームとアルミフレームの強度について嘘と本当を暴露したいと思います。
一番多く市場に出ているであろう、鉄フレームもついでに考慮しますので、参考にしていただければ幸いです。
純粋な素材は実用的ではない
まず最初に知っておくべきは、「鉄」とか「アルミ」とか「カーボン」とか言いますが、純粋な(単一な)素材は一般の方はまず目にすることはありません。
まずは「鉄」ですが、自転車によく使われているのは、クロムモリブデン鋼という素材です。
鉄に、クロムとモリブデンという素材を溶け込ませた「合金」です。
鉄には違いなのですが、合金のことを「鋼(はがね)」と呼びます。
自転車業界では、「クロモリ」と呼ばれている物です。
鉄単体よりも優れた特性を持っています。
クロムが含まれる合金としては、ステンレスが有名ですが、錆びにくくなるほどは含まれておらず、材質の強化のためにクロムは使われています。
材料業界では「SCM」と呼ばれますが、同じクロモリでも筆者が知っているだけで11種類あります。
「比較した」という場合、どれとどれを比較したのかは、とても重要なので、「鉄とアルミ」みたいなざっくりとした情報の場合、あまり信ぴょう性は高くないと考えた方が良いでしょう。
「SCM 415(クロモリ)とA7075(超々ジュラルミン)を比較した」などの具体的な情報は信ぴょう性が高いです。
次に、アルミですが、これも必ず合金で使用します。
1000番台から8000番台まであり、アルミニウムをベースとして、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)など、色々な金属の合金です。
2000番台は溶接しやすいので、ステムなどに使われているはずです。
フレーム周りは、コストと耐久性を考えて6000番台、軽量が売りの自転車のシリーズだと高価だけど7000番台などが使われているでしょう。
最後にカーボンですが、これも単体では使いません。
一般的に自転車に使われるカーボンと言うのは、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)であり、日本語にすると「炭素繊維強化プラスチック」となります。
炭素部分も重要なのですが、プラスチック部分も重要で、一口にカーボンと言っても、値段も強度もピンきりなのです。
ICANで使われている「カーボン」は、日本メーカー東レの「カーボンファイバー東レT700/T800」が100%使われています。
信用のおける素材メーカーの素材である必要があるので、これは世界最高ランクの素材と言っていいでしょう。
フレームの製造過程はYouTubeで公開されているので、一度ご覧になると驚かれると思います。
手作業でここまでやっているのです。
全く同じ形状で比較することはない
鉄、アルミ、カーボンで全く同じ形状のフレームを作ることは100%あり得ません。
また、作っても意味がないです。
それぞれに材質としての特徴が違うのに、全く同じ形状を作るはずがないのです。
溶接できない素材を溶接しようとしないでしょうし、鉄とカーボンでは強度が3倍も違うのに同じ形にしたら、カーボンが強すぎるます。
だから、全く同じ形状での比較実験は、世界中のサイトを見ても見つけられませんでした。
普通の実験は、メーカーが発売しているフレームについて比較するものが主流です。
溶接部はメーカーにより差が出る
「鉄フレーム」と代表的なフレームは存在しません。
それは、メーカーによって技術力や製造方法が異なるからです。
自転車のフレームの耐久試験の研究結果などを見ていると、破損するのは大体以下の部分です。
- 特徴的な部分が破損する
細くなっていたり、急な角度で曲がっているなど、特徴的な部分で破損が起きやすいようです。
- 違う材質同士の溶接
普通はやらないのですが、鉄とステンレス、鉄とアルミの溶接をしているような部分は折れやすいです。
鉄の溶接は一般的で安心感がありますが、アルミニウムの溶接はかなり難しいので、溶接部分が折れることがあります。
その難しさをお知らせしようとしたら、本が1冊かけてしまうくらいの量があるのですが、当記事の本道から外れるので、ここでは割愛させていただきます。
- ボトルケージのねじ穴
フレームにボトルホルダー固定用のねじ穴が開いていますよね?
あそこで折れるパターンもあるようです。
- デザイン性重視による応力集中
ビジネスにおいて、デザインはとても重要です。
かっこよくないと売れません。
ただ、かっこよすぎて応力が集中して、そこが弱くなっている場合もあるようです。
■少ないがテストしたデータは存在する
自転車のフレームのテストとして、各メーカーのフレームを買って、「鉄」「アルミ」「カーボン」で比較したデータは存在します。
許可をいただいていませんので、直接のリンクは控えさせていただきますが、ドイツの雑誌に掲載された「EFBe(Engineering for Bikes)」の実験などはとても有益だと思います。
体重85kgの人がフレームにスタンディング(立ち漕ぎ)を想定した負荷(122kg)を機械的に10万回与え続けた時のフレームの歪みを記録しています。
同社では、フレームに最も負荷がかかるのはスタンディング(立ち漕ぎ)と考えているようです。
この結果から、素材に関係なく、優れたフレームは10万回に耐え、ダメなものはどこかが破損していました。
このテストで各素材の評価は以下でした。
鉄フレーム・・・軽量ではないが、魅力的な価格でリーズナブルな耐久性
アルミフレーム・・・非常に硬く、軽く、非常に耐久性がある
カーボンフレーム・・・最も耐久性がある。実験で最も軽いフレーム。
これが結論です。
上記の実験では、2万時間の使用を想定している様でした。
1日8時間立ち漕ぎし続けて、約7年の計算です。
プロのレーサーでもこんな無茶な使い方はしないでしょう。
一般人が使うとしたら、どれを選んでもすぐに破損するようなものではありません。
ただ、信用のおけるメーカー、信用のおけるお店で買う必要はあると思います。
やはり筆者としては、お財布が許すのならば、カーボンフレームに挑戦したくなってしまいました。
外部ライター:奥野 晃一